エッセイ 47:日本の現状認識と進むべき道 1

一連の外務省がらみの騒動で小泉内閣の支持率が下がってきた。支持の是非を言う前に日本の現状を正しく認識することと、そして何故このようになったかを解析すること、今後如何に進むべきか、小泉内閣は何をしようとしているのか等を考えることが肝要である。以下、何回かに分けて私見を述べたい。

日本の国家財政は、以前にも指摘したように、嘗て経験したことの無いほどの赤字依存体質に陥っている。殆ど破産寸前と言って良い。
その原因から今日までの経過を追って見ると、

1.歴代の政府は、過去に経済成長は無限に続き、それに伴って土地や資産の価格も右肩上がりを続けるとの前提で、全てが運営されて来たのである。政府は、GDPは成長を続け、税収は毎年増加するとの前提で予算を組んで来た。一時的に景気が後退しても、景気さえ回復すれば再び税収は伸びて、多少の赤字国債を発行しても、簡単に返済出きるとの認識であった。

2.一般企業や銀行なども、右肩上がりを前提にして経営を続けてきたのである。特に供給量に限界がある土地については、急角度の値上がりが是認され、目先の利く一部の投資家や経営者達は短期間で莫大な利益を上げた。この夢を追って、銀行と建設会社などがその傾向を助長して、バブルの風船を膨らまし続け、、そして一気に破裂させてしまったのである。

3.その過程の中で、美味い汁を吸おうと政治家、官界、企業などが何でも建設するという公共事業に群がって、多くの利権構造が形成されてきたのである。公共事業の大半はこの構造的な利権漁りの対象になったと言ってよい。

4.バブルが一旦弾けると、右肩が今度は下がってくる。然し、過去の成功経験からこの右肩下がりは、当初一般には信じられずに、一部の企業や投資家は寧ろ買い付けの好機とばかりに投資を続けて、傷口を一層深くして、瀕死の重傷を負うことになってしまった。
一般企業の中には倒産することで市場から退場するものが出てくるのは、寧ろ自然現象に近い。自由主義市場であれば、これも止むを得ないことであろう。

5.問題は、政府もまた、当初バブルの崩壊の認識が遅れ、景気回復策として宮沢内閣以来、何回もの赤字国債発行による公共事業への投資を行ったことである。合計140兆円以上も公金が投入されたが、殆ど景気回復の効果がなかったことを、この際認識する必要がある。
然も、その間この公共投資に絡んで甘い汁を吸い続けた寄生虫が生き続けていることも忘れてはならない。政治の世界では、別名、抵抗勢力とも呼ばれている。
現在、連日新聞テレビ・週刊誌を賑わせている鈴木宗男議員の一連の疑惑は、こうした利権構造の一部が生き残っている一例として理解するべきものであろう。

6.極めて重要なことは、宮沢氏などケインズを信奉する過去の旧式な景気対策というものは、全く効果が無いことを、この際認識することである。道路建設、鉄道建設、公会堂・漁港整備などの経済波及効果は、極めて小さく、入札絡みの寄生虫の餌になるばかりであり、物価高騰の一因を招くだけなのである。更に言うならば、現在有効なる景気対策なるものは、殆ど展開しようもないほど、日本の経済は疲弊していることを認識する必要がある。

7.これらをすべて承知の上で、小泉内閣は構造改革を掲げて誕生したのである。
それまでの政権は、バブル崩壊後10年以上も、殆ど改革も無く効果の無い景気対策を繰り返したことで、財政の赤字依存は増え続けてきたのである。そして、今尚道路、鉄道の地方建設を要求する抵抗勢力として、勢力を温存している。
こうした中で、全ての道路建設工事を凍結するという小泉首相の当初の政策は、全く当を得た画期的なものである。

8.こうした観点からみて、幾多の抵抗勢力の反対を乗り越えて、内閣が進めている道路公団を始めとする公団、公社の民営化は、利権構造を破壊する上で、逐次着実に進めて行かねばならない。そして、より効率的な、安上がりの行政を推し進める必要があるのだ。然し、利権の甘い汁の味が忘れられない議員や、地元への利益誘導が政治であると考えている議員達は、種々の理由をつけて改革に抵抗を続けたいのである。

9.従って、田中真紀子前外相の更迭問題などは、日本の構造改革の重要性に比べれば、枝葉末節であって、そのために内閣支持率が下がるというのは、残念ながら、国民が日本の現状を正しく認識出来ていないことの表れといえよう。
寧ろ、これからが、本当の小泉改革の正念場であるから、抵抗勢力に負けないように皆で支持して行くことが、日本が正しく進むべき道なのである。

次に支持者が望んでいる景気対策、デフレ対策に就いて述べるが、それは次週と致したい。