エッセイ 446JAL問題


戦後一貫して日本のナショナル・フラッグであった日本航空が、経営危機に陥っている。
その再建計画が紆余曲折していたが、どうやら倒産させて会社更生法による再建を図るようだ。。

経営の詳細に就いては、門外漢である者がコメントするのは必ずしも適切とはいえない。
然しながら、傍目で見ても、将に倒産寸前の状態であるのは明らかなようである。その実態としては、現在でも日常の営業運行業務で日々赤字を重ねていること、負債総額が8000億円〜1兆円に達していること、燃料費、人件費等運転資金が日々必要なこと、資金が枯渇している中でこれ以上の銀行借入がほぼ不可能なこと等を考えると、早晩手形決済が出来なくなることは目に見えている。

この為に紆余曲折した再建策も、政府が無限の保証をしない限り、日本航空を倒産させる以外に道はない事が、明確になってきたのだ。確かに飛行機の運航を止めないことも大事ではあるが、運転資金がなくなれば、企業再生法による再建策以外に他に方法はない。

日本航空の経営が此処に至った原因は色々あろうが、一般乗客としての岡目八目で批判したいことは、枚挙に遑がないほどである。

先ずは、経営者及び従業員の過度のエリート意識である。一般国民にとって飛行機旅行が高嶺の花であった時代に、JALは日本の花形産業の一つであった。当初パイロットにアメリカの操縦士OBを起用した関係もあり、操縦士を始め給与水準はダントツであったし、スチュワーデスは女性の憧れの職業であった。
高度成長時代にビジネスマンの海外出張等で次第に旅客数を延ばし、その後の海外旅行ブームで運行便数も増加していった。その間に、航空業の世界はドンドン大衆化して、鉄道業等との競争になっていたのである。
アメリカで居住した人はお判りの通り、それ以前から、アメリカでは飛行機は日本の鉄道以上に普及しており、バス会社と大差はないステータスであった。スチュワーデスはバス・ガール並みであり、操縦士は運転手と基本的には大差がない状態であったのだ。

周知の通り、例えばNY−ワシントンの便は、毎朝満員になり次第何便でも飛んでいるのだ。ボーディング・ブリッジもない駐機した場所に乗客が荷物を持ったまま行き、満員になると出発する。それが次々に満員になり、ドノドン飛び立って行く。これが所謂シャトル便で、帰りも同様である。
これが主要都市間の飛行機運行の実態なのだ。最早バス以上ではないか。

そして、各航空会社間の競争は激しく、敗れた会社は倒産に追い込まれる。嘗て世界一を誇った彼のパン・アメリカン航空も見事に倒産に追い込まれてしまった。

日本航空の問題点は、このような航空業界の変遷の中にあって、経営上の戦略が全くなく、その間もエリート意識、高給体質だけが全く変らずに生き残っていたことであった。その意識が今尚消えては居ない。

その上に、日本の地方空港の相次ぐ建設に対して当時の政府与党の依頼を受けて、赤字路線を拡大していった経営陣の潜在的な国への依存体質が大いに責められねばならない。と同時に日本航空にその都度負担を増大させた自民党政権と運輸官僚の無責任体質もまた、今日の破綻を招いた責めは大きいのだ。

今回の従業員OBに対する企業年金削減問題に関しても、相変わらず親方日の丸意識が抜けていない。一般の民間会社であれば、遠の昔に倒産して年金などはご破算になっている筈だ。
政府資金、即ち税金を投入してOBに年金を支給することを国民の誰が納得するであろうか。

これまでの日本航空の親方日の丸体質を一掃するためには、寧ろ一旦倒産させ、株式市場からも撤退してゼロからのスタートをする方が望ましいことも事実である。

その意味では、京セラ創始者の稲盛和夫氏をCEOに起用する案は、極めて的を射た人事ではないだろうか。稲盛氏は、京セラを興し、自社技術の開発品が当時の通産省に理解されず、許可が下りない状況が続いた。然らば、とアメリカの各社で技術の真価を認めて貰い、日本に逆輸入にて今日の隆盛を勝ち得た名経営者である。
然も彼は、常に経団連とは距離を置き、従業員対策を含めて企業の社会的な責任を強調してきた人でもある。
リーマン・ショックによる販売不振で、直ぐに派遣労働者の削減を行ったトヨタに対しても、企業の社会的責任を挙げて批判した心意気が素晴らしい。

少々余談ではあるが、稲盛和夫氏の著書、「企業への情熱}は、大変読み易く、彼の経営者としての志、品格の高さが窺われる。現代の世の中には、人間のモラル、人生哲学、等を説く人は少ないが、その中で稲盛氏は人間の本質に迫る哲学を説く稀有の思想家ともいえるのではないだろうか。一読を勧めたい。私も近く再読したいと思っている。

そして、日本航空の倒産は、確かに社会的な影響は大きいが、稲盛氏のCEO就任によって、当たり前の企業経営が行われるに違いない。その再建を見守りたい。


(平成22年1月14日)