エッセイ 718ギリシャ問題


ギリシャの国民投票の結果、EUの要求する財政緊縮案に反対する票が大差で賛成票を上回った。キプラス首相はこれに対して勝利宣言をしたと云う。
これで一先ずEUとの交渉に際してギリシャが強い立場で対応出来る、とキプラス首相は宣言している。一国の指導者がこの程度の認識しか持ち合わせないのなら、ギリシャという国も落ちたものである。これからのギリシャの国家として資金難が続き、銀行運営は勿論のこと、国家の存在すら危うくなって来る、債権の返済もない国に更なる資金援助を行えば、EUの存在自体が苦難の連続となると予想される。

複雑な状況の解釈にメディアも苦労しているが、簡単に例えれば、ギリシャは破産寸前の会社であり、EU銀行からの借入金の返済が出来ない状況と同じなのである。この破産寸前会社は
6月末の返済期限に借金が返せないにも拘らず、更なる借金を申し込んでいるのだ。
EU側は、それ以前に会社の体質改善を求めており、人員整理が出来ないのならば、公務員給与や年金支給額の更なる引き下げ、を求めているのだ。勤労者の4人に1人が公務員であり、その給与は民間労務者の3倍であると報道されている。これに対してEU諸国が改善策を求めるのは当然であろう。

今回の国民投票は、その要求受け入れにギリシャ国民が反対したのである。キプラス首相は、経営者としては経営改善策を何一つ示すことなく、銀行側の要求を呑めないと主張しているに過ぎない。これでは、経営者というより労働組合のトップが社長の職に就いたようなのもである。組合の役員としても決して一流ではない。

首相としては、この際ギリシャのメイン産業である観光業の推進を図り、世界中から観光客の誘致を推進し,落ち込んでいる税収増加を企図すべきであろう。その為のEU諸国の協力を求めるような、前向きな政策推進を国民に訴えては如何であろうか。

ギリシャの債務総額と返済状況がどの程度であるかは、以下、産経新聞記事を参照されたい。

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 これまで欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)はギリシャを救うために、天文学的な額を同国に貸してきた。2010年5月と2012年3月の2回にわたった準備した救済パッケージの資金枠は2709億ユーロ(37兆9260億円)に達する。このうち2157億ユーロ(30兆1980億円)がすでに融資として支払われている。

債権交渉の泥沼化:
債権国は2157億ユーロのうちどれだけを回収できるかについて、ギリシャ政府と交渉することになる。過去の国家破綻の例を見ると、債権国はすでに貸した金の大半を失うことになりそうだ。たとえば2001年にアルゼンチンが債務不履行(デフォルト)に陥った。この時は、2005年と2012年に債務の一部減免が行われた。しかし債務返還をめぐる訴訟は、デフォルトから14年経った今も続いている。アルゼンチンに対する債権の約70%は、回収不能となった。

 ミュンヘンのIFO経済研究所で所長を務めるズィンは、「ギリシャがデフォルトしユーロ圏を離脱した場合、ドイツが失う債権の額は最大870億ユーロ(約12兆1800億円)に達する」と予測している。これは2014年のドイツ連邦政府の予算額(2965億ユーロ)の約29%に当たる。

 2010年にEUは、ギリシャの財政状態を改善するために、1070億ユーロの債権を減免した。金融業界で「ヘアカット」と呼ばれるこの借金棒引きにより、銀行や保険会社など民間の投資家が日本円で14兆9800億円のカネを失った。これに対し、今回のギリシャのデフォルトによって損害を受けるのは各国政府、そして納税者である。ギリシャ危機の被害がいよいよ庶民にまで及ぶ。

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以上にて明らかなように、6月末が返済期限であった2000億円の債務は、恐らく当分は返済は出来そうもない。債務不履行が続くのだ。
果して、当面ギリシャ国内の銀行が再開されるであろうか。それさえおぼつかない。
今回の国民投票の結果、問題解決どころか、更なる混乱が始まったのではなかろうか。

そしてこれ以外に7月中に返済期限が来る巨額債務を返済することが出来ない為に、恐らくデフォルトの陥るであろう。
デフォルトになった場合に、過去の債務の可成りの額の返済免除を行うことをEU諸国が認めるであろうか。仮に認めるとしても、ギリシャがEU諸国が主張するような、公務員数の削減、給与カット、年金支給額カットの受け入れがその条件となるに違いない。それを受け入れたとしても、ギリシャ国内で相当の混乱を招く事は間違いない。

嘗ての欧州文明の源流とも言われるギリシャが今や文化の乏しい欧州最貧国に成り下がってしまった。ギリシャ神話にもこんな話は出てこない。ギリシャ人は、今でも自分達が世界ナンバーワンであると信じており、明日は何とかなると楽観的なのだそうだ。
ギリシャはこの際過去の誇りを捨てて現実を直視し、当分は臥薪嘗胆して国家の復活再生に専念することは不可能であろうか。その姿勢が見えさえすれば、世界中からの観光客がアテネに戻って来る可能性もあるのだ。

更に、この背景にはユーロ圏がギリシャの加入を認めたことが、失敗だったとの見解を何時まで被い続けられるかという根本的な問題が隠されているのだ。


(平成27年7月9日)