趣味悠々 884江戸時代の絵画


最近、これまでにあまり評価されていなかった江戸時代の「奇想天外の絵画」が、脚光を浴びているようです。それは辻惟雄が書いた「奇想の系譜」の上梓以降、急激に評判が広がったそうです。今週も、文芸春秋、日経新聞でも6人の絵画が大きく取り上げられています。

その最たるものが伊藤若冲でしょう。若冲の場合は、もう相当前から再評価され、3年前の上野美術館での若冲展には45万人の観覧者あって、今や歌麿や北斎に匹敵するほど評価されています。

現在東京では「奇想の系譜展」が賑わっているそうです。これには若冲の他に狩野山雪、曽我蕭白、歌川国芳、長澤芦雪、岩佐又兵衛等で、長い間一般には殆ど知られていなかった画家達です。
然しながら、私も写真でしか見ていませんが、彼等の作品は、奇抜な発想に加えて将に奇想天外の構図、常識を超えた色彩豊かで、細部に亘る強烈な表現力は、一般の絵画には見られない独創性があります。浮世絵に関心がある人には、必見の作品であることは間違いないと思われます。

何故、彼らの作品が今まで碌々評価もされないで眠っていたのか、その理由は私には判りません。
彼等は、江戸で盛んであった浮世絵に対する対抗意識があったが、版画ではないために、作品の数は限られていたそうです。
一説によれば、若冲、国芳を始め、彼等は皆京都などで生まれ育ち、その作品が資金豊かな金持ち商人たちに評価されて、争って買われてしまった為に一般庶民の目に触れる機会が殆どなかったと言われています。

然しながら、近年になって「奇想の江戸絵画」などの書物が出て、その物凄さ、特異性、が知られてくると、これまでの歌麿や北斎、広重らの浮世絵とは、また違った評価が与えられることになったのも当然でしょう。
所謂江戸の浮世絵は、版画が主体であり、当時の庶民の興味を引いていました。それに、その奇抜な構図と豊かな表現力がフランスの印象派の画家たちを驚かせ、世界的にも知られることになったのは、周知の事実です。

こうして考えると、江戸時代の我が国の絵画の凄さは、将に世界に誇れるものだったのは間違いないと言えましょう。数年前にパリ美術館が、浮世絵の展覧会をやりたいと言ったので、当時の関係者が「若冲」などを勧めたら、「浮世絵と言えば、広重、北斎ではないのか?、jakutyu なんて聞いたことない」との反応。
それでも説き伏せて、若冲の作品を出展すると、目を輝かせて「こんな画家がまだ日本にいたのか!」と驚嘆したそうです。

閑話休題。

私の余計で勝手な感想ですが、江戸時代の日本の絵画の魂が、現代の日本の画家には残ってはいない、ということが心残りです。

残念ながら、当代の巨匠と言われる平山郁夫、東山魁夷などがトップランキングでしょうが、彼等の作品の欧米での評価はそれほど高くはないのです。
この点は、一度じっくり考えてみる必要がありそうです。


(平成31年3月14日)